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賃貸住宅オーナーも注目しておきたい ストーカー・DVに関する2020年の数字

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文/朝倉 継道 イメージ/©︎Rommel Canlas・123RF

「禁止命令等」は増加の一途

いまから9年前、2012年に起きた「逗子ストーカー殺人事件」を覚えている人も少なくないだろう。神奈川県逗子市のアパートで起きた事件だ。同年11月6日、セミナーのコーディネーターなどをしていた当時33歳の女性が、元交際相手の男に殺された。

加害者は、そのあと、現場建物の屋外で首を吊って自殺、これを通行人が発見。女性の住所が、逗子市の職員から探偵業者を通じて加害者に漏らされていたことなど、ストーカー被害者にかかわる情報保護の問題が大いに議論となった。

当時、ショックを受けたオーナーも少なくなかった。事件の発生場所が賃貸住宅だったからだ。

「意を決して準備を整え、入居者を殺害しにやってきた人物を止める手段など、オーナーも管理会社も持ち得ない」——結論としてはそうならざるを得ないなのだが、それでも、「普段から、オーナーと入居者、あるいは入居者同士にコミュニケーションがあれば、こうした悲劇を避けられるなんらかのきっかけを生むのでは?」、そんな意見が交わされるディスカッションの場に、筆者も立ち会ったことを覚えている。

さて、先般3月4日のこと。警察庁が「令和2年におけるストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について」と、題したリリースを発表した。

ストーカー犯罪および、配偶者からの暴力事案、いわゆるDV=ドメスティックバイオレンスに関して、データをまとめたものだ。

いくつか紐解いていきたい。

まずは、ストーカーだ。「ストーカー事案の相談等状況」については、「平成30年(2018)から減少し、令和2年も20,189件(前年比 -723件 -3.5%)と減少」と、報告されている。

2017年 23,079件
2018年 21,556件
2019年 20,912件
2020年 20,189件

このように、たしかに相談等の数は近年減少傾向のようだ。その一方で、以下の数字に関して、20年はいずれも前年より増加している。

「ストーカー規制法に基づく警告」
2019年 2,052件
2020年 2,146件
…過去最多は2016年の3,562件

「同・禁止命令等」
2019年 1,375件
2020年 1,543件
…2017年に急増。以降も毎年過去最多を更新中(=2020年も過去最多)

ちなみに、これら「警告」と「禁止命令」、どちらがストーカーやつきまとい行為をする側にとって重いかといえば、それは禁止命令だ。違反すると処罰・罰則を受けることになる。よって、「警告」は過去最多に及ばないものの、「禁止命令等」は急上昇後連年過去最多となっている状態が続いている17年以降というのは、警察当局が厳しい態度でストーカー対策に動いていることが数字ではっきりと窺える4年間といえる。

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DVの増加が鈍った2020年

次に、「配偶者からの暴力事案等(DV)の相談等状況」を見てみよう。数字は、04年以降ひたすら増加の一途を辿っている。そのうえで、「令和2年(2020)は82,643件(前年比 +436件 +0.5%)とDV防止法施行後最多」となっている。

ここ4年の数字を挙げてみる(カッコ内は前年からの増加分)。

2017年 72,455件(+2,547)
2018年 77,482件(+5,027)
2019年 82,207件(+4,725)
2020年 82,643件(+436)

これを見て、「意外」と思われる人も多いかもしれない。いわゆる“コロナ禍”の20年において、増加はいきなり鈍っているからだ。近隣住人による路上騒音=「道路族」が社会問題になったり、集合住宅内でのクレームが増えたり、世の中のあちらこちら同様、家庭内にもストレスが溜まっていそうだったのに、なぜ……?

昔からあった「道路族」の問題 なぜ深刻化?

これといった理由はいまのところはっきりと見えていないが、ともあれ、「増加が鈍った =歓迎すべき」「数は過去最多 =依然深刻」といえるのはたしかだ。

「配偶者からの暴力事案等の被害者・加害者の状況等」の中からも、数字をひろってみたい。

まずは、被害者の性別。20年においては男性23.6%、女性76.4%となる。DVといえば、暴力を振るう夫のイメージがなんとなく思い浮かぶが、実際には、被害者の4人に1人近くが男性となる。

同じく、被害者の年代別の割合だ。

10代 …1.5%
20代 …23.4%
30代 …27.0%
40代 …22.9%
50代 …11.9%
60代 …5.5%
70代以上 …7.7%
年齢不詳 …0.1%

さらに、加害者。同じく年代別の割合である。

10代 …1.1%
20代 …20.7%
30代 …26.3%
40代 …23.9%
50代 …13.0%
60代 …6.1%
70代以上 …8.8%
年齢不詳 …0.1%

被害者、加害者ともに、20代・30代・40代が、いずれも2割を超え、ボリュームゾーンとなっている。また、この年代といえば、一般的には、ファミリー向け賃貸物件の顧客となりやすい人たちともいえる。

そこで、前述の言葉だ。

「普段から、オーナーと入居者、あるいは入居者同士にコミュニケーションがあれば、悲劇を避けられるなんらかのきっかけを生むのでは?」

この言葉は、賃貸住宅内で起こるDVを抑える目的において、ストーカー被害の防止以上に、より現実的な響きを持つものといっていいだろう。さらには、児童虐待の防止についても、まったく同じことがいえるのではないだろうか。

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